それはいつもの休憩室。そしていつもの様に目の前で足を組む山吹薫を見て、白波百合は先日会った桜井玲奈の事を思い出していた。どうも記憶の中の彼女の姿とは違うのだ。
どうしたんだ?
いや、この前会った玲奈ちゃんの事を思い出そうとしたんすけど、どうも記憶の中の姿と違うんすよねー。もっとこう目立たなかった様な。
失礼な話だな。と山吹はマグカップを口元へと運ぶ。ぬーと白波は声を出して両手を頭に当てる。
おつかれさんでーす!お届け物に上がりました~!
あぁこの前の患者様の申し送りか。大変だったな。
そうだよー!まさか喘息発作が増悪するだなんてねぇ。ほんと怖いそうだよねぇ、、、
沢尻さん!お久しぶりっす!
おひさしぶりー!と沢尻悠は手をひらひらと降る。そして後ろを振り返り首を傾げる。
あれー?後輩連れてきてたんだけど、というかその後輩に、この申し送りをこの前頼んでたんだけど忘れちゃっててねー。
ドジっ子さんっすね!かわいい!
それはどうか置いておいて、ちょっと病棟に用事があるから、沢尻から喘息の事について教えてもらっておいてくれ。
うっすと敬礼する白波!なんか乱暴だなぁと、何処から来るか分からない、自信満々の笑みを浮かべて沢尻は答える。そして山吹が出て行くと廊下から、ひゃぁ!と声がして、その一瞬後に桜井玲奈が休憩室に入ってきた。
はぁはぁ。びっくりしましたわ。まだ心の準備が出来ていませんのに・・・
遅いよー!何してたのー?
あれ?玲奈ちゃんじゃないっすか!お疲れ様っす!
ちょうど良いやー!玲奈ちゃんも此処で一緒に勉強していく?
沢尻のその問いに桜井は一瞬首をすくめるめ、まぁ良いですわ。と答えた。
なら今日は薫さんに変わってオレが先生だねー!今回のテーマは喘息!なら喘息がどういう事かわかるかなー?
えぇと・・・喉がヒューヒューして息が切れる事っすかね・・・?
あらあら白波さん。なんとも漠然とした説明ですこと!喘息とは『気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動性をもった気道狭窄、喘鳴、呼吸困難や咳で特徴付けられた疾患』と喘息予防・管理ガイドラインでそう定義されてますわ!
ほうほう。つまりは、空気の通り道の気道が、何かの原因で腫れたり痰が溜まって細くなるっすね。それが慢性的に起きていて、何かのきっかけで、起きて息がヒューヒューと音を立てたり息が苦しくなるって事っすね!
うん。つまりはそういう事だね。ちっちゃい子がなるイメージだけど大人でも十分に生じる重要な疾患だね。そして長いお付き合いになる事もあるから十分に理解しないとダメさー!
ほぉぉ。と白波は桜井の説明を聞いて声を上げる。流石にちゃんと勉強してるっすと思う。確か学生の時も成績がとても良かった気もする。
先ずは先輩に習って、そもそも気道がどういう構造になるんだろう?
ハイ!口や鼻から入った空気が通る筒の様な場所っす!ちょうど胸の辺りで左右に分かれて、次々と分かれながら細くなってその先の肺胞っていう小さな小さな小部屋に繋がるっす!
あらそれだけではありませんわ。気道の中身は三つの構造になっていますの。こう手の親指と人差し指で輪っかを作って見てごらんなさいな。その一番外側が平滑筋という筋肉ですわ。そしてその中が気道粘膜、そして気道の内側を包むのが気道上皮となりますわ。
よく出来ました~!そこがタバコや埃、外の環境によっては弱くなってしまうんだよー。それでねー炎症が起きていると、その粘膜が腫れたり熱く厚くなる、そして気道上皮が剥がれたり、粘液が増えて、結果としてその気道が細くなる。そして更に刺激が加わりそれが更に細くなる。そうする事でヒューヒューと音がするんだよー。
なるほどと白波は右手で作った輪っかを縮めてみる。確かに通り道が狭いと上手く空気も通らなさそうだ。その輪っかの向こうで沢尻は顔を出し手を振り、白波はその手に振りかえす。
二人ともよく出来ました~!でも一過性の炎症ならば風邪の症状とかで出たりするよね。ならその人はみんな喘息なのかな?
沢尻さん、そんな軽薄は振る舞いはお止めなさいな。兎に角その要因にいつも晒されていると、当然気道も炎症を続けるのですわ。そうすると気道も硬く狭くなっていきますの。この様な変化をリモデリングと言うのですわ。
ふむふむ。それで肺胞に至る気流が制限されるっすね。それで普段より運動したりすると、体を動かす細胞の酸素の需要に対して供給が追い付かなくて息切れするんすね!それが慢性化して喘息となるっす!
そうそう!だから鑑別は必要!入院後の問診で必ず聞いておかないとリハビリする上でデメリットになる事も多いんだよー!何より患者様がしんどいの!
なるほどなるほど。と白波は何度も頷き桜井を見る。どうやらその瞳は好意的ではなさそうっすけど、それでもちゃんと勉強している良い子っすよねぇ。と白波は思い桜井にも試しに手を振ってみた。
白波百合のノート 81
・喘息とは慢性的に気道がストレスに晒されて、なんらかのきっかけで喘鳴や呼吸困難感が生じる
・一過性ではなく慢性的に生じる。そのために症状のコントロールが必要そうっす!
・なんで玲奈ちゃんは厳しい目をしてるっすかね。←真逆忘れた事を怒っている?だけども昔とイメージが違う様な・・・
【これまでのあらすじ】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【これまでの話 その①】
【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】
tanakanの他の作品はこちらから
ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから
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